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旅に出るのに、理由はいらない。

コンドルのいる動物園、シルクロードの寝台列車、マルタで過ごしたひと夏。海外30カ国・国内の旅行記と、旅についてのあれこれを綴ります。

トルコのド田舎のガソリンスタンドの片隅で ~パンチングマシンと小さな動物園~

トルコは広い。見どころは国土の至るところに散らばっているから、移動が大変だ。

イスタンブールからエーゲ海沿いを南下するこの旅で、私たちは毎日3~4時間はバンに乗って過ごした。

周りにはさして何もない国道の途中に、ガソリンスタンドがぽつんぽつんとある。

どのガソリンスタンドも、ひなびていて、武骨なのに居心地が良くて、なんとも味のある風情だった。その中でも忘れられないガソリンスタンドが二つある。

ひとつは、イスタンブールからガリポリに向かう途中のガソリンスタンド。

しばらくはマルマラ海沿いを進み、ガリポリに向けて少し内陸に入って、一面黄色のキャノーラ畑の合間を縫って進んでいる時に、そのガソリンスタンドは現れた。

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よくある田舎の大型ガソリンスタンドで、裏手にはセルフサービスのレストランがある。ここでランチを取ることになり、私はラム肉のスープを食べた。

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食べ終わってぶらぶらしていると、売店の前に人だかりが見えた。

おそらく地元の、若い男の子たちが騒いでいる。

彼らが興じているのは、パンチングマシン!

トルコリラを入れて、一人ずつ全力でサンドバッグを殴って得点を競っていた。

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いまのところの最高得点は、956点。

最高得点の更新を狙ってかわるがわる打つも、800~900点ぐらいをうろうろしていた。

張り上げる怒声と着崩した革ジャンは、“不良少年”のようにも見える。

でも、全力で遊びに興じる無邪気さと屈託のない笑顔からは、まっすぐな青春の匂いも感じた。たぶん、10代後半くらいの男の子たちだ。彼らの楽しげな様子が気になって、ニコルと私はしばらく近くで見入っていた。

そのうち、男の子たちも私たちを意識し始めて、パンチをする前や後に目配せしたりニヤッと笑ったりした。

ニコルが「写真撮っていい?」と聞くと、ガタイのいい男の子が「もちろん!」みたいなことをトルコ語で叫んで、パンチを繰り出した。

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結果は、940ちょっと。最高得点に少し及ばず、悔しそうにしていた。

バンに乗り込むときなんとなく名残惜しくて、窓から振り向くと彼らもこちらを見ていた。ニコルと一緒に手を振ると、何人かが手を振り返してくれた。

お互いに積極的に話しかけないけど、なんとなく意識し合ってる感じが、学生時代の放課後みたいで楽しかった。

「中学生の時、気になる男子がクラブ活動してるのを、あんな感じで遠くから見てるの思い出して、懐かしくなっちゃった!」

とニコルに言ったら、「あんたシャイね!話しかけちゃえばよかったのに!」と笑っていた。

 

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もう一つ、強烈に印象に残ったガソリンスタンドがあった。 

トロイから、エーゲ海のリゾート・アイワルクに向かう途中のガソリンスタンドだ。

近くに栄えた町らしい町はなく、さびれた静かなガソリンスタンドだった。ここでも、セルフサービスのレストランがあった。

私は普段の食事では、肉か魚を一品以上は食べたいのだけど、ベジタリアンのジリアンが食べる野菜だけの料理がどうにも美味しそうに見えて、この日はホウレンソウの煮込みにした。

トルコらしく、酸っぱいヨーグルトがかかっている。奥は名物の甘いミルクプリン。

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ぺろっと食べ終わって、バンの出発までは時間があったから、レストランの奥の公園をぶらつくことにした。

手作り感満載の噴水には、ちょろちょろとしか水が流れていない。

ときどき、犬が噴水に登って水を飲んでいた。

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なんてことない公園を更に進むと、誰も載っていないブランコが揺れていた。

手書きのカエルの絵が、何とも言えない表情だ。

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ここで、気付いてしまった。

この遊具の向こうに、謎の檻がある。

良く見れば、獣らしき何かが檻の中をうろついている…!

衝撃を受けた。こんなド田舎のガソリンスタンドの裏に、なんで動物園があるんだ。

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シベリアンハスキーは、檻の中を活発に動きまわっていた。

堂々としていて、目もらんらんと光っていて、少し怖かった。

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あひるは、ただ一匹、小さくうずくまっていた。

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くじゃくのつがいも…。

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チャウチャウ!飼われている動物たちは、不思議なチョイス…。

きっと、入手も世話も楽な動物を適当にかき集めたに違いない。

パステル調に塗られた小屋はかなり煤けていて、それがなんだか悲しかった。

小屋が途切れて、もうこれで動物園は終わりだと思った時、視界の左端で何かが動いた。

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ダチョウだ!!!!!!!!

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なんで、こんなところにダチョウが…。

近くで見るとくちばしが結構固そうでビビったけれど、ダチョウはつつく事もなく、鳴きもせず、私に構わずどこかの遠い方を見ていた。

ときどき、立派な羽を少しだけ広げて、何をするでもなく佇んでいた。

急に、ダチョウと、ここの動物たちが不憫に思えた。

たぶん、ガソリンスタンドの客集めのためにつくられた動物園だけど、この動物たちをわざわざ見に来る人なんていないだろう。

ふらっとガソリンスタンドを利用した人が、暇つぶしに奥の方まできたら突然動物たちがいて驚くものの、一瞥するだけで去っていくのだろう。

ガソリンスタンドには何十人もいたけれど、私が動物園にいた間に現れたのは、2歳ほどの孫娘を連れたトルコ人のおじいちゃんだけだった。

狭い檻の中で、誰に見られる訳でもなくただぼうっと過ごしている動物たちがいるこの空間は、この世の中にあってもなくても良いような場所なのに確かにここにあって、どこか浮世離れしていた。とにかく、この動物園には妙な切なさがあった。

でも、大きな動物園にいる動物が人気があるから幸せと言う訳でもきっとないだろうし、ここにいるダチョウやシベリアンハスキーは同情するほど不幸そうでもないし…。

ド田舎に突然現れた不思議な動物園に、私はひとりで混乱していた。

ダチョウが遠くを見ているのは、サバンナが恋しいからなんじゃないか…なんて、感傷的な妄想も膨らんだ。

 

そろそろ、戻らなければいけない。

でも、帰ってしまえばこの動物たちを見捨てたことになるような気がして、なぜか後ろめたかった。

動物たちは、私のことなんて何も気にしていなかったけれど。

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この小さな動物園について消化しきれないまま、みんなのもとに戻って、「あっちに小さな動物園があったの」と写真を見せたけど、「へえ」くらいの反応しか返ってこなかった。

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お土産を選ぶニコルとマリアを遠くで見ながら、この動物園のことを忘れずにいようと思った。

ほとんどの人がただ通り過ぎて、大して喜ばないけど、だから一瞬でもこの動物園に心を揺さぶられた私くらいは、ちゃんと彼らの事を覚えて置きたいと思ったのだ。

妙な義憤にかられた自分がおかしくて、少し元気が出た。

 

これが、トルコ旅行の中で印象に残った二つのガソリンスタンド。

エピソードにはなんの華やかさも無いけれど、それぞれ妙に心に残ってしまう、不思議な数十分だった。