読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

旅に出るのに、理由はいらない。

コンドルのいる動物園、シルクロードの寝台列車、マルタで過ごしたひと夏。海外30カ国・国内の旅行記と、旅についてのあれこれを綴ります。

悲劇のゲリボル半島から、ダーダネルス海峡を渡ってチャナッカレへ

ゲリボル半島の戦跡を巡った後、ダーダネルス海峡を渡る船に乗るためにエジェアバド港へ。

バンごとカーフェリーに乗り込んだ。

f:id:tabinideru0:20150524224128j:plain

甲板に車をいっぱいに詰め込んで、フェリーは出港した。

振り返れば、ゲリボル半島側の山肌に描かれた兵士の絵が目に飛び込んだ。

f:id:tabinideru0:20150524224347j:plain

屋根の無い最上階の甲板に登ると、気持ちの良いダーダネルス海峡の展望と、その向こうにアナトリア半島が見えた。

その一番手前の港町が、これから向かうチャナッカレだ。

 

f:id:tabinideru0:20150524224712j:plain

遠ざかるエジェアバドの街並みの西には、要塞が見えた。

f:id:tabinideru0:20150524224714j:plain

「あれは、キリットッバヒルという要塞よ。私たちがゲリボル半島で見てきたガリポリの戦いを語る上で、欠かせない場所ね。」

デニスが教えてくれた。血なまぐさい歴史を物語るかつての要塞は、今は紺碧の空と海の真ん中で悠々と、穏やかに佇んでいた。

ダーダネルス海峡には、軍艦が何隻もいた。

「あの軍艦は何?今でも、他国の船の侵入を防ぐ目的で配置されているの?」

ダーダネルス海峡マルマラ海に通じ、この海峡を越えれば簡単にトルコに上陸できてしまうように思えたので、そうデニスに聞いた。

「違うわ。あれは、確かに海軍の船だけど、防衛の目的ではないの。海軍の幹部候補生が乗っていて、訓練をするのが目的なのよ。」

f:id:tabinideru0:20150524225118j:plain

日本で言うと、江田島にある海上自衛隊の学校のような存在なのかもしれない。

吹き付ける海風は清々しく、船尾にはトルコの国旗がはためいていて、ほんの30分ほどだが気持ちの良い船旅だ。

 

f:id:tabinideru0:20150524225109j:plain

ただ、こんなに爽快なのに、私はなぜかトルコで花粉症が悪化していたので、この時もくしゃみが止まらなかった。日本では春の花粉の季節は終わったけれど、ここでは真っ最中なのかもしれない。

海峡を半分ほど渡った頃、真黒なスカーフに真黒なヒジャブを纏った、12、3歳くらいの少女が目の前に立った。

そして、ティッシュを差し出してくれた!

「わあ…!ありがとう!」

鞄にはティッシュが入っていたけれど、取り出す間もないくらいくしゃみを連発していたので、見るに見かねてティッシュをくれたのだろう。

少女ははにかんだ様子で友達のところに走って戻った。そこには5人ほど、同じく黒いヒジャブを着た黒ずくめの少女たちが座っていて、「うまくいったわね」とでも言っているのだろうか、くすくす笑っていた。

少し恥ずかしかったけれど、好意的な笑顔に思えたので、皆に向かってThank youと言うと、みんな嬉しそうにまた笑ってくれた。

f:id:tabinideru0:20150524225918j:plain

この時が、私がムスリムのヒジャブで顔以外のすべてを覆った女性と話す、最初の瞬間だった。

申し訳ない話、これまでその伝統的なムスリムの出で立ちをした女性を見るとき、どことなく、得体の知れ無さを感じていた。私が、彼女たちの宗教的背景・文化的背景について何も知らなかったから。

それに、ティッシュをくれた彼女たちにしてみれば、私もかなりの異文化の人間のはずだ。でも、私が困っているであろうことを察して、どうすれば良いか思案して、自らコミュニケーションを取ってくれた。それが、嬉しかった。

そうこうしている内に、向こう岸が近付いてきた。

ゲリボル半島側から見ていた時はかすんでいた街並みや要塞が、はっきりと見える。

f:id:tabinideru0:20150524230123j:plain

皆、甲板の縁から身を乗り出して、チャナッカレの街並みを眺めた。

f:id:tabinideru0:20150524230135j:plain

デニスが、私たちを呼びに来た。

「みんな!そろそろ降りるわよ!バンに乗りこんで!」

f:id:tabinideru0:20150524230143j:plain

 

私はヒジャブの少女たちにお礼とお別れを言って、バンに戻るために階段を下りた。

このバンが陸に乗りあげたら、そこはもうアナトリア半島。ヨーロッパ側の大陸には、イスタンブールに行くまで戻らない。

さよなら、ダーダネルス海峡。またいつか、渡ることがあるだろうか。

f:id:tabinideru0:20150524230136j:plain